港区の坂道

 

 江戸幕府の牙城千代田城警護の御役目を担ったであろう人々の御屋敷跡は今世界の町となった東京の中で各国大使館領事館所在地となってその威厳を保っています。麻布台、高輪台、白金台など武蔵野台地丘上に架けられた坂道はすでに消滅した「あふひ坂」などを除きそれぞれその昔の歴史を秘めて厳然と現代の風景の中にその健在を示しています。


 

聖坂

三田三丁目四丁目境の三田台を南西に上る坂。坂途中西側に亀塚稲荷神社。坂上東には初代フランス大使館が置かれたという済海寺があり高輪台に続く尾根道を上る坂の途中付近には潮見坂、安全寺坂、蛇坂や幽霊坂などの古坂が散在する寺町にある古坂。

 

 

天神坂

高輪台の尾根を走る二本榎通りの高輪一丁目20と22辺を西の坂下桜田通り方向へ下る坂。坂上南角に菅原道真の祠があったことからの坂名の由で坂下先は桜田通りで分断される以前は白金台一丁目の覚林寺方向へ繋がる古くからの坂道だったようです。

 

 

三分坂

赤坂五丁目と七丁目の境を一ツ木公園沿いに北東へL字カギ型に上る急坂。昔この坂を上る大八車の押し賃に三分を取ったことからの坂名の由でその苦労が偲ばれる坂。坂下西には有名な関取雷電為衛門墓のある寺、坂上は赤坂サカスでその北方は薬研坂。

 

 

新坂

再版江戸砂子に云、「円通寺坂赤坂のうち円通寺と云日蓮宗の寺有り府内備考に云円通寺坂黒鍬組屋敷と円通寺との間の坂なり坂上に佛智山円通寺といへる日蓮宗の佛刹あり」と。この文面は現在の赤坂五丁目にある円通寺坂公園の坂上の円通寺の説明文。

 

 

 桜坂 

東京メトロ南北線溜池山王駅南を出て、真っすぐ六本木通り高架下を渡れば赤坂1丁目です。眼の前東方向の坂道は榎坂。そこをアメリカ大使館その先を上り切って行けば汐見坂ですが、本命の桜坂は目と鼻の先、六本木方向僅か先を東南に上る坂です。

 

 

桂坂  

JR品川駅西を南北に走る国道第一京浜の高輪2丁目3丁目境地点、ここを西の高輪台上へ上る坂。坂途中南側にイギリス公使館跡として知られる東禅寺があり、日本近代史の一端を知る坂道ともなっており、界隈は歴史の秘話を知るところ多い坂の町でした。

 

 

富士見坂 

南麻布四丁目にある坂。南麻布四丁目の南を走る明治通りと西側を北へ走る外苑西通りに近い天現寺橋東の麻布台上から西へ下る坂道の現在は富士山の見える筈の方角に高層ビルが遮って坂名の風景はみえない。都内にあるその他の坂も同じ運命です。

 

 

永井坂  

東京タワーのある芝公園三丁目の坂。東京タワー通り西側の麻布台を南北に走る桜田通りの土器坂上に下る坂は、西北方向の外苑東通りから下って来る榎坂坂下と合流する四つ辻上の坂です。華やかさといかめしさに満ちた街区への入り口にある町の坂です。

 

 

鳥居坂 

 東京メトロ南北線麻布十番駅の西方六本木六丁目にある坂。 首都高速環状3号線が東から北西方向に湾曲する坂下地点から北東坂上を走る外苑東通りへ上る坂途中東西には東洋英和女学院高中・小幼稚園のキャンパスで占められた文教区域にある長い坂です。  

 

 

伊皿子坂

三田三丁目と高輪二丁目境界の三田台と高輪台の尾根を南北に走る二本榎通りの交差点から南東に湾曲しながら下る坂。坂下近くの西側に忠臣蔵で有名な泉岳寺がありその坂下は第一京浜国道に合流して東京メトロ浅草線泉岳寺駅に直結の至便の場所です。

 

 

笄坂

六本木通りと外苑西通りが交差する西麻布交番前辺りから西へ上る坂がそれで、反対方向の東へ上る坂が「霞坂」です。都内を流れていた小川は都市開発に伴ってほぼ全て暗渠となりましたが、この西麻布坂下を流れていた笄川にちなむ名だったのですね。

 

 

暗闇坂

港区内を走る幹線道路六本木通りと外苑東通りが交差する六本木交差点の東南側の六本木三丁目にあると言う坂の実態は一体何処にどのようにあるのでしょうと閻魔様にお伺いを立てたかったのですがあの喧騒の中ではそれも出来かねない模様でありました。

 

 

円通寺坂 

東赤坂四丁目と五丁目境界の坂。現在の赤坂一ツ木通りの中程にある浄土寺角を西に折れその先を行った上り坂上に坂名の寺があり北へ行けば薬研坂南へ行けば三分坂に至る坂。古書に「赤坂一ツ木町と丹後町の間を黒鍬谷へ下る坂あり円通寺坂と呼ぶ」と。

 

 

乃木坂 

港区を東方向から西方向走る主要道は北のあおやまとおり、南の六本木通りとその中程を行く赤坂通りの三通りです。乃木坂は外堀通りの山王下から南青山の根津美術館へ行く通りの中程の乃木神社に上る坂。外苑東通りが南北に貫く十字路にあります。

 

 

魚籃坂

東京の交通の大動脈とされている第一京浜国道と桜田通りが高輪台の東西を縦貫しています。その両者を結ぶように東の第一京浜から西の桜田通りまでを繋いでこの坂の街の風格を引き立てているのが高輪台東の伊皿子坂と西側を上る魚籃坂のようです。

 

 

雁木坂 

通称桜田通りと外苑東通りが交差する麻布台二丁目交差点北側の麻布台一丁目にある坂。東京メトロ日比谷線神谷町駅南のバス停東京タワー入口近くから南西方向の麻布台一丁目の高台へ上る坂でその先を北に折れていくと俄然坊谷の坂につながる坂道です。

 

 

三年坂 

虎ノ門五丁目と六本木一丁目の間辺りだったか曖昧ながら宗教法人の大伽藍裏手を北西に上下する階段坂。坂下先を南に行けば麻布俄然坊谷脇の落合坂や雁木坂に繋がる道の階段坂。東京メトロ日比谷線神谷町駅のある桜田通り南西台地上の隠れた場所の坂。

 

 

洞坂 

高輪三丁目の桂坂途中から南西に折れ東禅寺東脇をクランク状に上静かな路地の坂。坂入口角にある東禅寺は初代イギリス大使館が置かれたところで日本近代史中の大事件などで知る人ぞ知る場所で格式ある寺脇の坂は大東京の中の静寂を実感させる場所。

 

 

絶江坂

南麻布二丁目と三丁目境界の坂。麻布台南側丘上東方の寺町を坂下南の明治通り脇へ下る坂は本坂の西側を並行して下る形の薬園坂や新坂などとともにほぼ同様の形状で坂向こうに首都高速2号線の高架が見えその先に白金台丘上の景色が見える地域です。

 

 

鮫ヶ橋坂

四ツ谷駅方向から新宿区若葉町の学習院初等科前を過ぎ赤坂迎賓館を左に見ながら南西に下る坂。皇宮警察詰所のある東宮御所御門までの坂は都心部でも稀な緑豊かな林間の坂道で坂下の上りは安鎮坂と名が変わって神宮外苑脇の権田原に至ります。

 

 

稲荷坂

赤坂通りの北赤坂七丁目と八丁目境界にある坂。古書に「赤坂新坂町より旧御掃除町即ち今の台町に下る坂をいふもと坂北に稲荷山園通院と称する寺有りて稲荷の神祠境内に在りしを以って此名あり寺は今やなしと雖も神祠移して坂南の高所に現存せり」と。

 

 

飯倉榎坂  

麻布台1丁目2丁目を区切る外苑東通りの端っこ近く、麻布郵便局前、ロシア大使館前の辺りを東へ下る坂です。坂下は北東から来る桜田通り、南から上って来る土器坂、向いの東京タワー通りから下って来る永井坂の交差点となっている要の坂道です。

 

 

明治坂

渋谷区との境に近く、東京メトロ日比谷線広尾駅南1kmほど、白金台駅北1kmほど道中は見所多彩のコースです。双方とも外苑西通りを白銀六丁目屈折点まで頑張れば明治坂緑地で寛げます。途中、松岡美術館、東京大学医科学研究所を確認できます。

 

 

牛坂 

港区を東西に横切る六本木通りと南北に走る外苑西通り交差点の東側が霞坂で西側が笄坂、ここを南へ二丁程下ったブロックを西の牛坂緑地へ上る坂道が目的の坂で坂下外苑西通りの向こうを東へ上る坂は大横町坂、東京メトロ日比谷線広尾駅の北600m。

 

 

葵坂

虎ノ門二丁目交番前の金刀比羅宮と斜向かいの虎ノ門病院との間の坂と言っても現在その形跡はありません。幻の坂は新虎ノ門通りが特許庁前の外堀通りと合流するまでの間にあったと言うため池跡遺構は「広重絵」で楽しみましょう。

 

 

日吉坂

国道1号線通称桜田通りの名光坂上を西に折れて目黒通りに入り、白金台1丁目と白金2丁目の境を西南西に上る。坂下南のシェラトン都ホテル東京や坂上南の八芳園に隣接し、昔、能役者日吉喜兵衛という人が近くに住んでいたことからの命名の由。

 

 

狸穴坂

元麻布二丁目と三丁目の境を北西へ上る坂。坂上は付近一帯の丘から寄り集まる暗闇坂・一本松坂・大黒坂の集合地点となっています。古書に「狸坂及び狐坂黒闇坂の南一本松町と界せる坂をたぬき坂と云ひ此の坂の西軒家町に接したる処を狐坂と云ふ」。

 

 

薬研坂 

赤坂御用地の南際を東西に走る青山通り沿いにある赤坂警察署の西、港区の赤坂地区総合支所のある角を南へ下る坂、坂は一旦低地に下りて再び上る坂の形が薬を砕く薬研に似ていることからの起こりとか、坂上を先へ行けば三分坂上につながる道です。

 

 

南部坂 

南麻布四丁目と五丁目境の坂。古書に「元禄年間温情軒の江戸絵図を見るにナンブサカと載せて南部の邸梨されば其の以前なるべし江戸砂子に南部坂万延の切絵図また之に同じ難歩坂と改めたるは近年なり険峻にして行歩艱難の意を取れりとかや」と 。

 

 

鼠坂 

麻布飯倉交差点東の麻布台三丁目の南隣りの町麻布狸穴町と麻布永坂町の間を坂上の外苑東通りから南へ下る坂。麻布台の崖地を一気に下る感じの急坂は坂下の狸穴公園でその勢いを止められています。喧騒の大都会の中の隠れた場所にある穏やかな坂道。

 

 

土器坂 

 東京メトロ日比谷線神谷町駅南の通称桜田通りと外苑東通り榎坂下と東京タワー通り永井坂下が交差する麻布台二丁目にある坂。坂はここから南の古川赤羽橋方向へ下り三田三丁目で第一京浜に合流する都心部の主要幹線でありおしゃれな街への通用坂です。

 

 

道源寺坂 

首都高都心環状線と3号線が頭上で分岐する六本木通り脇にある坂。六本木一丁目郵便局近くを東南へ上るスペイン坂と南西方向へ行く麻布通りとの間を南坂上の六本木坂上児童遊園に登って行く坂は周辺の活況にまぎれてその場所を見失うかの地点です。

 



森光宏明

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